2021-01-01から1年間の記事一覧

手近なハードコア

駅前広場の牛丼チェーン。 黄色に青と白のロゴが掲げられた入り口のドアが開くと、高出力の蛍光灯で隅々まで照らされた、殺伐とした店内。その様子はさながら食品工業で、「加工の過程でタレを絡めて牛丼営業もしていますよ」といったような、それか「言って…

間の街

オフィスからの帰り道、乗換駅の改札を出てすぐのところに、大手チェーンの輸入食品屋ができた。 菓子やチーズ、チェコの珍しいドレッシングなど、真新しいものがたくさんあるので、つい立ち寄ってしまう。 なんだか仕事後の変に渇いたスーツを腕組みして店…

おれのアルティメットバーガー

毎日食うことにすがりついて生きている。ふやけたウイダーでも牛蒡チップスでも、あとセブンのツナ握り。林檎。薄いバニラ味のプロテイン。それらすべては毎回新たな香りや味をあらわす、つまり、365日すべての食事がおれにとっての祝祭なのだが、これまで「…

冬の朝。千代田線の窓から射す陽の光は白々と透きとおって明るい。目を閉じたおれのまぶたに光がしみて、無数の微細な血管が脈打つのを感じる。15分のささやかな癒しの時間だ。 おれは目覚めの身じたくを乗り越えてオフィスに向かっている。あああ、鮭松さん…

シーフードの樹液

今日はテレワークの日だった。水曜の14時だった。何だかすごくにぶい、懶い午後の空気の中で、おれは建て付けのわるい木製のデスクについた右ひじに全体重をかけ、身をもたれ掛けて、一向に進まない作業を前に呆然としていた。 この、資料の最後のところにつ…

レンジ

おれにはいわゆる〈寝かしグセ〉がある。誰しも小さなタスクなんかをつい面倒で放置してしまうことはあると思うけど、おれのは尋常じゃない。はっきり言って。 雨ざらしになったベランダの物干し竿を窓の横に立てかけておく事、仕事の連絡電話の一本、Amazon…

アイスピッケルに昆布を巻く

徒歩で30分くらいのところにあるホームセンター。おれはホームセンターが好きだ。今日は趣味の製図用のシャープペンシルの芯を買いにきた。いくつも連なった棚には無数のシャーペンと芯が並んでいて、これはなんという充実であろうか。文房具コーナーからと…

ジュレに結晶するおれ、鍋の林檎

都内へ出る機会があったので、久しぶりに神保町の〈片桐家〉へ行ってきた。 この日は35℃の馬鹿げた猛暑だった。おれは日差しよけの大きな黒いハットを被り、歩くたびに上下するハットにちらつく街の風景を眺めた。コンクリートやビルに打ち込まれた鋼鉄にた…

光の雫を飲む

おれの部屋の冷蔵庫。ブラウン色の冷蔵庫の奥には、氷砂糖をみしみしと敷き詰めたような山がそびえたっている。 どこでも手軽に買える日本酒の定番の一つである〈菊水〉の350ml缶である。近所のセブンとかに行くたびに少しづつ買いためてこの量になった。 冷…

山菜の形容

最寄駅の改札前に立ち食い蕎麦屋がある。いわゆる駅の蕎麦屋。天ぷら蕎麦からカツカレーセットまで、とりあえず化調でドライヴさせて一口目の感動だけ打ち込んでくるような、可もなく不可もないメニューが並んでいる。それでも毎日この駅を利用する8000人く…

わき水

最近よくワインを飲んでいる。だいたい数ヶ月前からごくあたり前に買うようになったのだが、いざワイン目線で近所のスーパーやコンビニの売り場を眺めてみると、けっこう色々な種類がならんでいるのを発見した。チリとかアルゼンチンとかのが多い。赤と白が…

味噌ラーメンがヘブンズゲートでしたわ

おれが住んでるアパートから一番近いラーメン屋は駅前の”キヴ酛”だ。 おれにとってキヴ酛は、世間で言うところのコスパのいい中華屋というよりも、極限まで削減されたコストと均質なオペレーションの界面で瞬く色々が軽やかに衝突する熱狂の現場だ。だからい…

オロナミンはおれのBrave Lancer/朝の魔

目の覚めるような赤い色彩。竜の模様を流している黄色。今にも寝落ちそうなおれのまぶたに染み入る光は暖かかった。背面からわずかにせり出した缶やペットボトルの連なりから元気一杯に飛び出すようにして、色鮮やかなポップが輝いている。ああ寝床に帰りた…