シーフードの樹液

今日はテレワークの日だった。水曜の14時だった。何だかすごくにぶい、懶い午後の空気の中で、おれは建て付けのわるい木製のデスクについた右ひじに全体重をかけ、身をもたれ掛けて、一向に進まない作業を前に呆然としていた。

この、資料の最後のところについている「※調べといて※」っていうのはなんなのかなあ?ここは鮭松さんに電話して確認しておくべきだろうか?でもあの淡水魚の骨格から発せられるにぶい舌打ちをスマホ越しに浴びせられた日には、今日一日が台無しになってしまうからなあ。

それにしてもどうしておれが苦手な、というか一向に話が通じない相手は皆一様に淡水魚の骨格を持っているのだろうか?つまりどことなく角ばった〈たくましい〉骨格ということだが。おれはプロダクトの構造の話をしたいのに、鮭松さんはいつも配色の話をしている、といった具合。

「だからここやっといてっていったよね」
「あ、そこは組み立てておきました」
「組み立てた、じゃなくて何色のシール貼ったのか、って聞いてるの」
「シールですか?構造ではないですか?」
「もういい」

アアア!!淡水魚の骨格をムスッと歪める鮭松の顔が浮かんでくると、胃のあたりから嫌な煙のように立ち上ってくるものがある。

とりあえずカップラーメンを食べよう。木製の棚の中にどっさりストックしておいたからな。とりあえずあのスープと麺の怒涛の流れをおれの暗いうつろへ注ぎ込めば何かが起こるかもしれない、と思うと、さらに食欲がブーストされて、おれは鮭松の影を振り切るようにシャンと背筋を伸ばし、意気揚々と、キッチンの方まで歩いて行ったのだった。

煮えたぎり、透きとおったように輝くお湯をポットからそそぎ入れるとき、乾燥ネギや肉の塊や、波打つ乾いた麺や、カップの中に敷きつめられた具材とスープパウダーに水分がうるわしく流れ、そこらじゅうから賑やかに香りが立ち始める。

気づいた時にはもう半分むさぼり食っていた。エビから染み出す甘さに濃厚な魚介スープパウダーが混ざり合っての強靭な味と熱さが体に染みて、おれは崩れ落ちてしまいそうだった。

そうだ、こういう時にメシの本当の味わいが湧き出してくるようなものだよな。すがりつくように。おれは溢れ出す旨味を感じて、流しに手をかけもたれかかり、目を閉じて呆れたように首を横に振った。

まったく。おれはあの時「Hah?」といってやるべきだったのだ。

最後にたっぷりと旨味を吸ったシーフードをかきこみスープを最後の一滴まで飲み干したとき、おれは勝利を宣言した。

来いやああああ(;゚Д゚)!!

スマホがザリリリィィィと鋭い音を立てて机を震わせている。