ハムサンドを圧縮するおれ

ランチのラテに合わせるのはいつもハムサンド(380円)。レジ横にある鋼の陳列ケースの一番下にある。大量のトルティーヤラップやホットチーズロールの山が投げた影のようにひっそりと並んでいる。

重力に抗えずぐったりと折れ曲がったその姿といい、どう見ても貼り付けのあまい剥がれかけた値札といい、たぶん埼玉か千葉あたりのデッドな工場で生産されたのだろう。大きな錆びた機械がサンドイッチの生産ラインでガンガン縦横無尽に暴れ狂っているような。最寄り駅から徒歩90分の。すでに廃墟の風情を漂わせている。

でも、すごく新鮮そうに見える。ふっくらとして分厚い。うっすらとサシ目の入ったハムの自然な発色。そしてうまい。パンは細やかな空気の粒をふんだんに含んで食感がいいし、ハムのコクも香りもじつに豊かで、もしこれが洗練された化学調味料による味わいだったとしても、ああもはやオーガニックだなあ、という感じ。

何よりキリッと効いた芥子の爽やかさ。

ーおれの流儀ー
包装フィルムを右手でつかんで《オガァァッッ!》といった具合に圧縮、だいたい縦横10cm厚さ3cmくらいの、Sophisticatedな所作でむさぼり食うのに適したサイズにまとめて、いつも二口くらいで平らげる。

それほど力強い味わいを持っているタマゴサンドだし、じっさい毎日食べたいほどにうまいのだ。

芥子の酸味に含まれた微かなりりしさに、おれはいつも午後をサヴァイヴするための勇気をもらっている感じがする。

しかし、一体どうしてレジ横で鈍く輝く鋼の陳列ケースの一番下に陳列されているのだろう?たしかに軽食類は各種ラップやロールの「花形」とは別に、テリヤキBBQサンド、ザク切り春雨ドッグ、バナナクッキー、無花果ジュレ、など、たくさん揃っているのは分かるけど、どうしてここまで洗練されたハムサンドがサブ的な扱いなのだろうか。アアア!!

だれかデッドな工場へ問い合わせてみてくれないか?