味噌エクストリーム

丼になみなみと注がれたスープから上ってくる湯気を浴びたら顔がすげえ熱くなって「おほぁ!」という気分。爽快だ。目をつぶってみると、まぶたに湯気がにじんで、まるでドラゴンの吐息に盾をかざしたようで、突然ブラックアウトしたおれの視界に丼の鮮やかなホワイトの残像が映し出される。

MISOスープに含まれる濃厚な味噌ダレのなんとも美味そうな匂いが鼻腔のあたりへ遠慮なく吹き荒れるので、思わず「オホァァ!!!」とリアルに叫んでしまい、一度に店内の視線を集めてしまう。

ーーこんなのはミーティングの屈辱に比べたらなんてことはないーー

いつでも行列が絶えない〈花翠〉へ行こうと思ったのは、今日はいつもより少し早めの11時にオフィスを出られたからで、とっさに「これはいけるな」と思った。おれはあえて苦手なスキップを織りまぜつつ、12時から始まるランチタイムの修羅を目前にゆうゆうと街を闊歩、朝から蜃気楼のように頭にゴウゴウとたちこめていた濃厚な味噌味の湯気へ摑みかかるようなつもりで、気がついた時にはあのオレンジ色の暖簾をくぐっていた。

さて、今日の味噌ラーメンだが、とにかく魚介ベースのダシ感が強烈で、丸いテクスチャーになりがちな味噌には珍しく、鋭い、キリッと引き締まったスープを手打ち麺で持ち上げて一心不乱に啜り込むとクッソうめぇ!!ぶ厚い焼豚も自家製メンマもクッソうめぇ!!アアア!!

スープは10秒で飲み干した。たしか野菜はたっぷり乗っていたが、すべてをまぶしい味噌スープが飲み込んでしまったので、何が入っていたかは分からなかった。しかしニラの明るい緑と人参の濃い紅、そしてみずみずしいモヤシの食感はありありと覚えている。

12時過ぎにオフィスへ戻ると、鮭松がデスクで書類を睨みつけながら洒落たサンドイッチを食べていた。

「お疲れさまです。それ何サンドですか?ハムですか?あとアボカドですか?僕は味噌エクストリームです」