木陰にTHUNDER VOLT、オリーヴ摘んで

水曜日の、ちょうど13時だった。午後の仕事へ向かうため、おれはオフィスへと続く坂道を下っていた。

朝は、あれ、寒いかな?と思って薄手のカーティガンなど羽織ってきたものの、陽が高くのぼってくると意外と暑い。シャツの下で胸や腰や腕や肩がうっすらと汗ばんでいるのを感じる。

緑の匂いがする。湿っぽくにじむような樹木の匂い。いよいよ初夏かな?試しに、右手を肩回しの要領でガンガン振ってみると緑の匂いのする竜巻きが起きた。初夏だなあ。おれは少し気分が乗ってきて、ジョンフルシアンテの〈Carvel〉を口ずさみ始めた。

AH AHAH AHAHAA、AH AHAH AHAHAA、軽く節をつけて、昼休み終わり特有の焦燥感を注ぎ込むようにしてメロディを歌うと、なんだか勇ましい気持ちになってきた。

月曜の朝の混沌の中でも、退勤後の静けさの中でも、フルシアンテはいつ歌っても最高だ。

ファミマの前まで来たあたりで、右ポケットの中のスマホが、ヴッ、と振動する。運送会社から荷物の配達完了を知らせるメールが届いていた。ふた月寝かしている水道代の催促だろうか?あるいはついに水道菅を封鎖されたかーー?と、不安がよぎったが、この前ネットで注文したシャツだった。

LOLOのプルオーバーシャツだ。昔よく着ていたシャツを先日、先藤町のセレクトショップで見つけて、おとといネットで購入したのだ。ノーヴルで騎士的なエッセンスを絶妙に抽象化して、サラリと普遍的な形へ落としこんだデザインと、強靭なコットン生地、そしてわずかに影を含んだ複雑な色あい。

どれもピンと来るものがあった。そして、ショップの試着室で袖を通したとき、優しい稲妻のような感覚に打たれた。自分の「ユニフォーム」の一つにすることに決めた。

手始めに黒とブルーグレーをそろえて、つい先日、今年の新作である綺麗なダークオリーヴの一枚を見つけて、とっさに注文した。オリーヴのにぶい輝きと、艶っぽい色あいが美しいと思った。

帰ったらLOLOのシャツが届いている。ラフなガムテープで頑強に梱包された紙袋が4番の宅配ボックスにドロップされている。

その事実が今日のおれを何度でも蘇生する。シンプルに明るい。楽しいことだ。そして袖を通してみることを想像すると良い気分になってくる。

こういうのはいつでも楽しみだ。Werkshtatt Munchenの無骨なシルバーリングを手に入れた時もそうだったし、ホグロフスの青いマウンテンパーカーを手に入れた時もそうだった。しっくりくる「ユニフォーム」を手に入れるほど良いものはない。

ダークオリーヴなら職場でも着れるな。鮭松だってこの前変なラメの入ったピンク色のカーディガンだったし、嶺田さんはサンダルだったしな。

よし。月曜は新しいシャツを着て出勤しよう。そして、強靭なコットン生地のポケットに両手を突っ込んで、少し背中を丸めてこの坂道を歩こう。

ーーいつかナイトになれそうだなーー

おれは声をかるくドライヴさせて、ジョンフルシアンテのメロディを勇ましく口ずさみながら、灰色のオフィスへ向かって、正午のにぎわいを見せる十字路を右に曲がった。