レンジ

おれにはいわゆる〈寝かしグセ〉がある。誰しも小さなタスクなんかをつい面倒で放置してしまうことはあると思うけど、おれのは尋常じゃない。はっきり言って。

ざらしになったベランダの物干し竿を窓の横に立てかけておく事、仕事の連絡電話の一本、Amazonで届いた不良品の工具の返品、などを何日も放置してしまうのはもちろん、一度などツタヤの会員カードの解約手続き、6月になると年会費500円の引き落とし通知がやってくるカードの解約手続きを3年寝かせてしまった。ずっとタスクリストには書いてあったと言うのに、どうしても手を伸ばすことができなかったのだ。

今日、昼過ぎに、悲壮な決意でもってコールセンターへ電話をすると、解約にかかる簡単な案内があって、何度かボタンを押したらものの5分で解約することができた。汗をかいていた。

普段の仕事はひととおり真面目にこなしているのだが、なんというかおれの世界には謎の「狭間」のようなものがあって、そこへタスクが入り込んでしまうと、たちまち頑固な膿のようにこびりついてしまう。

スピーカーの上にたまったホコリを拭くのに、まるで巨大な山を一つ動かすような悲壮なダルさを感じる。


しかし、分かっている。おれはどこかで魅入っているのだ。タスクを寝かしてどんどん蓄えられていく何かに。締め切りが迫ってきたタスクを寝かせる時なんかは特にだ。

大学生の時、まさに卒業がかかった単位の、最後のレポートの締め切りの日。教授の研究室のポストにA4の紙を提出しておかなくてはならないのだが、提出日になってもどうしても書き終わることができなかった。おれは薄汚れたPCの前でうめきながら途方に暮れていた。

窓から透き通るような光がさす水曜の午後だった。おれはベッドに横になってこんこんと眠り込んだ。

18時から始めれば間に合うかどうか、という瀬戸際で、おれはできるだけ長く、できるだけ遠くまで逃げるように眠りを味わった。締め切りが迫ってくるほどに眠りはあまく静かに深くなっていった。

20時に目覚めて、悲壮な決意のもとで額から汗をダラダラ流しながら最後のパートにとりかかって、それで意外と10分で終わって、おれは悠々と胸を張ってキャンパスに向かった。


今日は半年寝かせた電子レンジの掃除をやろうと思う。扉をあけて布で拭いて磨いて、ものの15分で終わるだろう。しかし、体が固まってどうしても動くことができない。おれはレンジの前に座って、金属に反射した午後の光のかすかな虹の色を呆然とながめている。