鉄の清潔

うちのチームのデスクにはPCが5台並んでいる。いかにも毎日のオフィス業務にすり減らされた、うす汚れたPCを見ると、おれはいつも朽ち果てたヌードルをねじり続けるマシーンのような気分になって、もの悲しさのあまり床に崩れ落ちそうになる。

何よりそのデザイン。半端にアールのついた角の部分も、水っぽい絵の具で塗りつぶしたようなグレイも、ぎこちない姿勢で直立するキーボードも、なにか冴えたデザインが施されているわけもなく、かと言って虚飾を排した無骨な「インダストリアル」の風情もなく、あえてのダサさを讃えた「ナンセンス」ですらない。

まるで「これが現場のリアルだ、灰色の」とじっくり説教されたように、丹念にそのデザインのきらめきを潰されたPCに、オフィスの大きな窓から温かい春の光が落ちていた。

パッとしない灰色の本体はそのままだったが、カリカリと忙しく音をたてるハードディスクの上部で、青いライトが鮮やかに点滅していた。デッドな意匠の中に冴える青のりりしさ。そこにはプラスチックや金属特有の清潔さがあった。内部のデータ処理なのか何の具合なのか、不思議なリズムでなめらかに瞬くライトについ見入ってしまう。

ライトの点滅はやがて澄んだ結晶のような響きを立て、さまざまな震えとなって、バカのような顔をしてぼーっと立ち尽くしていたおれも鮭松がムスッと歪めた淡水魚の骨格のアゴも峯脇さんの黄色い帆布のバッグもシャツから漂ってくるわびしいアイロンの匂いも木曜日の淡い恍惚もすべて貫いてオフィス中へと反響した。

ーそういえば寝かせている書類があとふたつあったなー

おれは絶対にPCにポストイットを貼らない。剥がしたポストイットの跡でびたびたになったフレームが全てのオフィス的な苦しみを象徴すると思うから。だから、ミーティングの資料差し替えもクライアントからの問い合わせも、どれだけ重要な案件が飛んできても絶対にメモは取らない。ただ「バカ豚麺だ、にぶい輝きにまみれた」と心の中で三回繰り返すだけだ。