LILAC IPA DISTORTED

最寄駅から10分ほど歩いたエリア。大通り沿いに大型スーパーやパチンコ屋なんかがある昔ながらの空気を感じる一角にひっそりと構えた酒屋があることは前から知っていた。

《大川酒店》色褪せたのれんがバサバサと風に揺れている。いかにも酒屋然としたその見た目に反して、店内の現代的で洗練された様子に驚いた。いかめしい木製の棚に混じってりりしいアルミのケースや薄い紫色のしゅっとした冷蔵庫が林立している。

ビール類の充実。Tangerine ExpressやGigantic Crystal Ale、Tymec Orange Ciderまである。そして見たことのない謎めいたパッケージの一本が片隅にーー(ライラックの咲き乱れる丘でやつれたポロシャツの男がのたうちまわっている)

天井の木目の模様、のれん、伝統的な酒屋の骨格のなかのラインナップに不思議な清潔を感じた。さっぱりと磨き込まれた棚やガラスや扉に、店主の毎日の執拗な清掃ルーティンが見え隠れするもの好きだった。

そして店の奥の方は創業からそのままのうす暗さと埃っぽさで、春先に暴れ狂う松がえがかれた日本酒、無骨な取っ手のついたガソリンタイプの焼酎など酒屋らしい品もしっかり揃っていた。ここは「燃料」のコーナーだ。

おれは最後は大五郎に沈むと決めている。10Lを一気に飲み干して春の公園で樹液にまみれて地面へ崩れ落ちるのだ。

おれは見たことのないルクセンブルクのHazy IPAを買って、重低音の響きを含ませて「しゃす」と一言挨拶をすると、いそいそと破れたリュックに詰め込んだのだった。

おれはまだかろうじて明るいところでのたうちまわっている。